抜かずに死ねるか!

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エロ業界に20年以上も棲息していると、 仕事でつきあいのある人が、 ある日突然連絡が取れなくなる、なんてことがある。 必ず電話に出る人が電話に出ない。 そんな状態が二日も三日もつづく。 どうもおかしいぞと思っていると、 実は、お上の世話になっていたというオチなのだが、 当事者にしてみれば、その後の人生に大いに影響する話なワケで、笑い話にされてはかなわないかもしれない。   何ヶ月か、何年か、「お勤め」の期間は人それぞれだろうが、 御用になるのは決まってモデル事務所の知り合いである。 しかし、事務所から派生して、関係者にまで捜査が波及することがある。 かく云う自分にも、十七、八年も前のことになるが、 当時勤めていた出版社に、警視庁の刑事が事情聴取に来たことがあった。   「チョベリグ!!」というエロ雑誌で、 僕がハメ撮りした女優が、実は、17歳だったのだ。   01   個人経営でちょくちょく宣材を持ってきてくれるKさんという人から、 僕は、その女の子を紹介された。 宣材といってもお粗末な代物で、ポラロイド写真の余白に名前と年齢だけがマジック書きされていた。 モデル名はもう忘れてしまったけれど、年齢は「20歳」だった。   事務所の言うことを真に受けて、ろくに年齢確認もしていなかった。 刑事には、そのポラロイドを見せ、「17歳とは知りませんでした」と釈明するしかなかった。 刑事は帰り際に、「首を洗って待ってろ」と捨て台詞を残して出て行った。 それからは、生きた心地もなく、仕事もろくに手に付かない日がつづいた。 用事もないのに田舎の親に電話を入れてみたり、勤務時間に、知り合いの編集者で元「塀の中の住人」を訪ねてみたり…。   その女の子を撮影したのは、出版社では自分だけで、 ほかにビデオメーカーが5社ほど、彼女を使って作品を撮っていた。 刑事の事情聴取があって、ひと月も経たないうちに、 それらのビデオメーカーがすべて御用になったことを新聞の記事で知った。 九死に一生を得たのは自分だけだった。   なぜ出版社はお咎めなしだったのか? その理由ははっきりしている。 当時のエロ本は「擬似」ハメだったのだ。 写真にホンバン必要なしという理由から、 フェラや前戯のショットはあったが、行為そのものはなく、カタチだけで済ませていた。 唯一その点が、出版社とメーカーの明暗を分けた。 メーカーにたいして劣等感を感じつつ、仕方なく、イヤイヤながらやっていた擬似ハメだったが、 そのときばかりは「擬似」さまさまで、大感謝したことは言うまでもない。